入賞作品

その瞬間を想像して編集部員一同、ドキドキしました。お互いの親同伴での新婚旅行というのもいいものかもしれません。きっと本音が言い合える、裸の付き合いができるようになったのではないでしょうか。

「すべり台」

古垣内 求さん(72才、大阪府在住)

僕が二十五才、彼女が二十才のときに僕たちは結婚した。妻は母娘ふたり、僕は父親が再婚前だった。あれから五十年経っても今だに忘れられないことがある。

二人が結婚することになり、ぜひ親孝行を」したいと新婚旅行に互いの親を誘った。父も義母も最初は渋っていたが、結局喜んでついてくることになった。

一泊目は海辺に建つ十階建ての観光ホテルだった。食事前にひと風呂浴びることになる。僕は父親と、妻は母親とそれぞれの風呂に向かった。父は上機嫌だった。

男風呂の隅に「すべり台乗り場」と、貼り紙がしてある。僕に続いて父も滑り降りる。曲がりくねりながら大きな湯船に滑り落ちた。

そのとき女風呂の方から女性のハシャギ声が聞こえてきた。振り返ると女風呂から続く滑り台で妻と母親が転げるように降りてきた。タオル一枚だけを手にして。

四人が素裸で湯船の中で向い合った。僕はそのとき義母の裸を初めて見た。父は嬉しそうな顔をしてタオルを頭に載せたまま、二人の裸を見比べていた。

ドキドキ湯けむり賞
(写真はイメージです)

誰も言葉を交わらさないまま逃げるように階段を駆け登ったのを覚えている。父は二人の女性の裸を見て刺激を受けたのか半年後に再婚した。あの元気だった父も義母も既にこの世に居ない。

この想い出を書いていると、二人がどこかで笑っているような気がしてならない。

その他の応募作品

女性なら一生忘れられない恥ずかしい思い出、男性なら「ラッキー!」と思ってしまうような応募作品をご紹介します。

幸福の星を見る前に幸運が

上野有治さん(78才、神戸市在住)

今から50年も前の私の結婚は、母の友達の娘と1回だけのお見合いで結婚することにした。結婚式は簡単にして、その費用で2月だから、私が行きたかった四国の桂浜へ行き、四国一周の新婚旅行を計画した。

私は、星に興味を持っていて、南天で一番明るい星の「カノープス」を見たいと思っていた。「カノープス」は、2月の四国、九州の南岸でしか見られないことから、2月の新婚旅行を桂浜へ決めた。「カノープスを見れば、その年に幸運が訪れる」と言われている「幻の星」である。

結婚式には、妻になる娘は派手な結婚の化粧をしない予定であったが、母親の希望で、2回目に会う娘は「こんな顔であったのか」と思うほどの厚化粧の顔で式場に現れた。式後に化粧を落としたが、また違う顔になっていて「どの顔が本当の顔か」と思いながら、「夜に、風呂上りの素顔を見る」を楽しみに、式場から新婚旅行の四国へ出発した。

私たちは岡山から「宇高連絡船」で四国へ入った時分に大雪が降りだし、夕方に桂浜へのホテルに着いた時には、四国の交通機関は高知県以外は全部止まったとの連絡があった。

2月は、桂浜近くでプロ野球の「阪神」が春季キャンプを張っていて、その見学団体客なども来られなくなっていて、私たちの他に別の新婚旅行のものだけが泊まることになった。

宿泊客は、どちらも新婚旅行だから、料理も余っているので、ホテルはお祝いを兼ねて、予定以上の豪華な料理を部屋に運んでくれた。

各部屋の前が家族風呂で、最初から2人で一緒に入りたくないから、「私だけ先に入る」と、着物を部屋で脱いで浴室へ行った。体を洗って浴槽に浸かっていると、女性が入ってきて脱衣所で脱いでいるのが、磨りガラスの向こうに見える。妻には「一人で入ると言ってあるのに」と思っていると、ドアを開けた。そして浴槽の私を見て、前を隠さずに全身を見せたまま固まってしまった。

昼間の妻の顔と少し違うようだが、「妻の驚いた顔」と思いながら、私は「ミロのビーナス」と思って見ていたのである。私が「私が出てから入ると言っていたではないか」と言うと、妻と思っていた女性は「ハッ」と我に返り、浴衣を持って脱衣場を走り出た。

翌朝に分かったことであるが、隣の部屋の新婚旅行の新妻は浴室へ行く前にトイレへ行き、戻ってきて部屋の前の名前がう「上村」と同じようなので間違えて、その前の浴室に入った。脱衣場に何もないから、入って来たのである。主人は部屋にいるはずで、ドアを開けて浴槽に男性がいたので驚いたと言っていた。

私は「幸福の星」を見る前に、若い女性のヌードが見られるという幸運が訪れたのである。そのためでもないだろうが、「もう幸運は不要」となったのか、私の楽しみにしていた「幻の星」は、雪で見られなかった。しかし隣の新妻より私の妻は、はるかに美人であったのは、それが「幸運」と思うことである。



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